智慧に還る
2026/07/03

十年ほど前のこと。
娘が高校に入ったばかりの頃です。
ある日、突然、こう言いました。
「お母さん、ガウェインの結婚って調べてみて」
調べてみるとそれは、
アーサー王物語のひとつでした。
「アーサー王物語だって」
「へー、そうなんだ。知らない」
アーサー王物語の存在は知っていたけれど
読んだことはない。わたしも、娘も。
当時はそういうことがよくありました。
なんの脈略もなく、娘がいくつかの言葉を言う。
それを元に調べていくと、ある像が浮かび上がる。
誰得かわからない、けれど、
わたしの情動を動かしていたのは間違いない。
娘はアーサー王物語の存在すら知らない。
それなのに、なぜか、その話を手渡してきた。
調べてみると、こういう物語でした。
レディ・ラグネルという女性に、
醜い姿の呪いがかけられている。
彼女と結婚するようにと、
アーサー王に勧められるガウェイン。
引き受けざるを得ない。
その呪いを解く鍵は、
ひとつの問いの答えにありました。
「すべての女性が最も望むものは、何か」
この答えに即答できる女性が、
いったいどれほどいるでしょう。
物語と共に答えを知りたい方は、
スマホを閉じて、調べてみてください。
きっと、あらすじはすぐに見つかります。
さて、ふたたび。
「すべての女性が最も望むものは、何か」
答えは、自らの意志を生きること。
物語のいちばん美しいところは、
この答えそのものではありません。
ガウェインは、彼女がどう在るべきかを、
決めてあげることはしませんでした。
昼に美しく夜に醜いか、その逆か——
どちらを選ぶかを、彼女自身の手に返した。
こうした方がいい。
こうするべきである。
物語の時代背景を鑑みれば、
夫が決めてあげることが良しとされる。
しかしガウェインは、
決める権利そのものを、手放したのです。
その瞬間、呪いが完全に解けました。
彼女が取り戻したのは、
戦って勝ち取った意志ではありません。
誰かに「それでいい」と認められて、
ひらいた意志でもない。
相手が踏み込むのをやめたところに、
自らの意志が立ち上がってきたのでした。
──── ✵ ────
これは、手放しの放任とは違います。
決める権利を返すことは、
関心を引くことでも、突き放すことでもない。
ガウェインは、彼女から目を離してはいません。
選ぶのは彼女、けれど、
その選択を見守る眼差しがある。
決めないまま、深く関わっている。
踏み込まないことと、届けないことは、違う。
決めはしないが、必要な言葉は、ちゃんと手渡す。
この、微妙なさじ加減が難しいところ。
ただ互いに相手の出方を見ているだけでは、
何も動かない。
見守ることと、関わらないことは、違う。
踏み込まずに、届ける。
そこに、パートナーシップの醍醐味がある。
──── ✵ ────
物語の内容を娘に伝えると、
「お母さんはね、」と、予言めいたことを口にした。
その日の夜、娘は、ふわーっとそばに来て、
台所で洗い物をしているわたしの背中に
ピタッと抱きつきながら、こう言ったのです。
「お母さん、もう誰の許しも許可も要らないよ」
その一言が、深く、深く、刺さりました。
あれから、八年か、十年か……。
それだけの時間を経て、いま、ようやく
書きたい思いとともに、この話を持ち出しています。
「意志」を取り戻すとは、
誰の助言も聞かないとか、
すべて自分で決めるとか、
そういうことではありません。
かといって、誰かの許しを待つことでもない。
その、あわいにあるものを、本編で手渡します。
(初出|2026年7月3日)
山羊座満月遠隔ワークに寄せて。
今日は、大安、寅の日、母倉日が重なる。
母が子を育てるように天が人を慈しむ日。
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出典・著作|玄花オフィシャルサイト
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